最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)242号 判決 1997年10月14日
東京都大田区中馬込一丁目三番六号
上告人
株式会社リコー
右代表者代表取締役
浜田広
右訴訟代理人弁護士
秋吉稔弘
同弁理士
瀧野秀雄
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被上告人
特許庁長官 荒井寿光
右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行ケ)第一一一号審決取消請求事件について、同裁判所が平成六年九月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人秋吉稔弘、同瀧野秀雄の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
(平成六年(行ツ)第二四二号 上告人 株式会社リコー)
上告代理人秋吉稔弘、同瀧野秀雄の上告理由
原判決は、その判断を遺脱し、もしくは理由不備又は理由に齟齬がある。
一、原判決は、本願発明の解決課題及び構成、効果につき、「ファクシミリ装置の管理においては、何時いかなる送受信があったかを正確に把握することは極めて重要である。この点に関する従来技術では、通信管理情報を記録するためのプリンタをファクシミリ本体のプリンタと共用して機構の煩雑化を避けたものにおいても、通信管理情報の管理については、必要とするときまで記憶しておき、プリントアウトの指示をまって記録するものが提案されてきた。しかし、この方式ではプリントアウトの指定があるまで記憶し続けるため、膨大な記憶容量を必要とし、かつ、蓄積された通信管理情報が膨大となった場合には、必要とする情報の入手に時間と費用を要すること等の問題点があった。そこで、本願発明は、以上の通信管理情報の管理上の問題点の解決を課題として、比較的小容量の記憶手段を用いて、通信管理情報を消失させることなく、かつ、必要とする通信管理情報の入手が容易なファクシミリを提供するべく、特許請求の範囲記載の構成を採択したものである。本願発明では、通信終了検知手段が送受信の終了を検知し、検知手段が、記憶手段に記憶されている通知管理情報の情報量が所定値以上であることを検知すると、記憶制御手段によって、前記記憶手段の記憶内容を記憶した順番に読み出し、さらにこれをファクシミリの記録手段で印字する。この結果、通信終了時に、記憶手段の通信管理情報の情報量が所定値以上の場合には、自動的に、時間的に記憶した順に読み出されて、印字されるので、比較的小容量の記憶手段で、しかも通信管理情報の消失がなく、さらにその入手が容易であり、また、記憶順に読み出して印字出力するため、時間的に前の通信のものから通信管理情報が印字されるので、通信管理情報の分析、整理が容易である、という作用効果を奏する。」と、正しく認定した。
二、然るに原判決は、本願発明をもって、「昭和五五年特許出願公開第三四五七〇号公報に記載の「引用発明1」に係るファクシミリ装置」に、「昭和五二年特許出願公開第四二三〇六号公報に記載の「引用発明2」に係る課金情報記録方式」を適用することにより、容易に構成することができる旨認定判断したが、上告人の主張に対する判断を遺脱して技術常識に反した結論を導いたため、その間に合理的な理由を付さないか、もしくは理由に齟齬があるものである。
1. 引用発明1に係るファクシミリ装置では通信管理情報の消失がないようにするため大容量の記憶手段をその構成とし、したがってその内容を印字する(プリンターに入れて読むことができるように可視化させること)のに時間を要し、また<1>通信管理情報の情報量を検知する検知手段について記載がなく、<2>通信管理情報を印字するのは「必要なとき」であるとの二点において本願発明と異なることは審決の認定するところである。のみならず、引用発明1にかかる装置は情報蓄積のための装置であり、かつその情報を印字する場合でも、その必要があるときに、印字する為の記録手段を使用するもの、即ちプリントアウトの指示を要するものである。そこには、通信管理情報の情報量が所定値以上となった場合に自動的に印字されるという本願発明の特徴である技術思想はなく、またこれを示唆するところもない。
2. また、引用発明2に係る課金情報記録方式では、取り出された記憶手段の情報を再度磁気テープに記録させる課金情報の磁気記録方式であって、課金情報が所定量になったときに取り出して磁気テープに記録する構成のものであって、所詮、情報を蓄積する方式に止まる。そして、磁気テープに記録することが、印字することを含むとする技術常識ないし経験則はこの技術分野において存在しない。原判決が、引用発明2について、「情報量が所定量に達したとき別の記憶手段に情報を転送する構成」(原判決三四頁七行ないし九行)と述べたのは、右に述べたように、「課金情報の情報量が所定量になったときにこれを磁気テープに記録するというもの」であって、要は、情報の蓄積を目的とする構成である、そこには、印字のための情報転送という技術思想は存在しないし、その示唆もない。
3. 右1及び2で述べたところからすれば、「引用発明1に引用発明2の構成(情報量が所定量に達したとき別の記憶手段に情報を転送する構成)を組み合わせれば、引用発明1の印字手段によって転送された情報が順次印字されることとなる」との原判決の認定判断(原判決三四頁七行ないし一〇行)は、上告人が審決取消事由として述べたところを十分に理解せず、又はその判断を遺脱した結果の技術常識に反する認定判断であるというべく、到底承服し難いところであって、何故に、本願発明の特徴である、順次印字されることになるかの点につき理由不備というべく、もしくは理由に齟齬があるといわざるを得ない。
4. 上告人が取消事由(1)及び(2)に述べるところの趣旨は、右上告理由とする点にあることはその主張内容に照らし明らかで、特に、「引用発明2において、磁気テープに課金情報を磁気記録させている理由は、課金情報の性質からみて、単に課金情報の蓄積を行ったにすぎないもので、その蓄積に基づく機能は、実質的に引用発明1における「内蔵メモリへの情報の比較的長期間蓄積」に該当するものであるから、引用発明2の右一連の技術的手段は、引用発明1の「受信-長期間の蓄積」と等価な技術的手段にほかならない」旨主張している。
三、以上のとおりであって、引用発明1に係る「ファクシミリ装置」に引用発明2に係る「課金情報記録方式」を適用しても、得られるものは、本願出願当時従来のファクシミリ装置と原理的に同じファクシミリ装置となり、前記した、通信管理情報の入手が容易になるという本願発明の課題は解決されるものではないのであって、即ち、記憶手段の通信管理情報が所定量になったときに取り出した通信管理情報を、磁気テープ(又は同等の大容量の記憶装置)に記録(記憶)させることなく、直ちに印字させるようにする本願発明のファクシミリ装置が容易に構成されると認定判断し、かつ本願発明の奏する効果も容易に予測されると認定判断した点で、原判決の結論に影響を及ぼす判断の遺脱、理由不備もしくは理由の齟齬があるから、破棄されるべきである。
以上